サッカーとラグビー
「ラグビーってサッカーからできたんでしょ?」
「ラグビーフットボールっていってるのに、手使ってるよね?」
こんな認識や疑問を抱いているそこのあなた。
実はぼくも同じ様に思ってました。
しかし、
実際のところは少し違います。
フットボールの歴史を振り返りながら
サッカーとラグビーの生い立ちを見ていきましょう。
誤解が生まれたもと
ラグビーが生まれたキッカケは「フットボールの最中に、とある少年がボールを持って走ったこと」
だと言われています。
聞いたことありますか?
ありますよね。そうですよね。
これにはちゃんと根拠があります。
イングランドのラグビー発祥の地だといわれる
ラグビー校の正門近くの壁にこんな文章があります。
「この石碑は、1823年フットボールのルールを見事に無視し、
初めてボールを持って走り、特徴あるラグビー・ゲームを創った
W.W.エリスの功績を記念するものである」
確かにこの文章を見ると
「やっぱりラグビーはサッカーからできたんじゃないか」
と思ってしまいますよね。
ただ、ここで注目してもらいたいのは
「フットボール」という言葉です。
そもそもフットボールとは
中世のイングランドで行われていたフットボールが、サッカーやラグビーの直接的なルーツです。
当時のフットボールは
町や村単位で何百人もの人々が敵・味方に分かれて
教会や水車小屋などのゴールへボールを運ぶというようなもので
ボールを蹴ることは少なく
ほとんどはボールを抱えてゴールを目指しました。
キリスト教や農事暦に関した祝祭日に行われる
民族的・季節的行事だったので、非日常的なものでした。
感覚としては日本の「お祭り」のようなものです。
行われていた目的は
「集団で激しい接触をして、勇敢さや肉体的な強靭さを示し、地域の共同体意識を高めること」
であるので
目的でも「お祭り」と共通したところがありますよね。
他にも
日々の労働から心身ともに解放される行事であったため
プレーが非常に激しく荒々しいものになり、
伝統的に危険性の高いもの(ケガ人が出すぎて禁止されるくらい)だった
という特徴がありました。
激しく荒々しいと聞いて
なんとなくですが
岸和田のだんじり祭りを思い出しました。
フットボールの変遷
17世紀に入るとイングランド南部で盛んにフットボールが行われるようになりましたが、
清教徒革命や産業革命の結果
民族行事であるフットボールは衰退していきました。
18世紀ごろからは
パブリック・スクールでフットボールが徐々に盛んになっていきました。
生徒たちは限られた環境やちょっとしたスペースを利用して
フットボールを楽しんでいたので
パブリック・スクール毎のローカルルールができていきました。
共通していたルールとしては
・肉体的な接触を伴うこと
・キック・ドリブル等の足の使用
・キャッチ・パス等の手の使用
でした。
なので、当時のフットボールは
どちらかといえばラグビーよりのゲームだったのでしょう。
分岐点~サッカーとラグビーの誕生~
19世紀半ばになるとラグビー校でフットボールのルール成文化が行われ、
それを機に各スクールでルールの成文化、統一が進められていきました。
そんな中フットボールが
今日のサッカーとラグビーに分かれたのは
ハンドリングではなく「ハッキング」というプレーが原因でした。
ハッキングとは、相手のスネあたりを蹴るプレーのことです。
負傷させたり、倒したりすることを目的としており、
当時は、タックルに対し敵の胸を拳で突くという様なプレーも
反則ではありませんでした。
ルールの統一が進むにつれて
暴力性・危険性を減少させようと指向した学校では
手の使用を極力制限してキックやドリブルを主体としたルールを作りました。
これが後のドリブル中心の新しいフットボールである
「Association Football(サッカー)」の原型になります。
ラグビータイプのフットボールは相変わらず暴力的で危険でした。
「ハッキングのない女々しいフットボールはできない」
という価値観がまだ根強かったのでしょうね。
「スポーツ」として考えるとあり得ないことですが
「お祭り」として考えるとなんとなく理解できるところがあります。
現在の日本でも客観的に見れば危険な「お祭り」はありますもんね。
やはりいきなり伝統をなくすとか変えることは難しいのでしょう。
民族的行事からスポーツへ
フットボールのルール統一化、言い換えると近代スポーツとして組織化する担い手になったのは
学生ではなく、社会人・地域クラブの大人たち
(産業革命を境に新しく登場した中流階級の人たち)でした。
ゲームの日常化が進むにつれて
少年たちには許されても、
仕事をしている大人たちにとってハッキングは極めて不適当なものでした。
ケガをしてしまうと
仕事に差し支えてしまいますから当然ですね。
当時の時代精神が
暴力性と危険性を有するフットボールを許しませんでした。ハッキング禁止を盛り込んだルールを認めました。
ここから今日のスポーツとしてのラグビーが生まれたのです。
何事も時代には逆らえませんね。
まとめ
近代スポーツはより安全性やスポーツマンシップを追求し
普及・発展することで現代スポーツとして定着してきました。
いわば、暴力性や危険性の排除が歴史的な文脈です。
なので
「ラグビーはサッカーから生まれた」
のではなく
「時代に合わせるべく安全性を指向した結果
フットボールがサッカーとラグビーに分岐した」
という訳ですね。
いま思えば
ラグビー校の文章よりも
サッカー>ラグビー
というイメージから
「ラグビーはサッカーから生まれた」
と言われるようになったんじゃないですかね。
まあ、ラグビーは今でもケガの多いスポーツですが
昔は故意にケガをさせるプレーがあった訳ですから
それに比べればまだ安全な競技になりました。
また、同じフットボールにも関わらず
なぜサッカーがこれほど多くの人々にプレーされるか
という問いに対して
「危険性のレベルがラグビーよりサッカーの方が低いから」
というのが
歴史から考えるとひとつの答えになるでしょう。
とはいえ、激しいコンタクトプレーが
ラグビーの魅力でもあるので
競技人口を増やすという点においては
バランスが難しいところですね。
おまけ
フットボールって何種類あるか知ってますか?パッと思いつくのは
サッカー、ラグビー、アメフトくらいじゃないでしょうか。
実は大きく分けると6種類あります。
・アソシエーション・フットボール(サッカー)
・ラグビー・フットボール(ユニオン&リーグ)
・アメリカン・フットボール
・カナディアン・フットボール、
・オーストラリアン・フットボール
・ゲーリック・フットボール
この中で
手を使わないのはサッカーのみで、
ボールが球体であるのも
サッカーとアイルランドのゲーリック・フットボールだけです。
フットボールの中では
楕円球が使われている競技のほうが多いというのは
意外な発見でした。
逆に手を使わないのは
サッカー独自の進化と言えますね。
参考文献
歴史と地理(山川出版社):1968年サッカーの祖先はラグビーだった--「ラグビーはサッカーから生まれた」のではない
高木應光
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